『ポケットモンスターSPECIAL』におけるマチスについて

0.はじめに

 このレポートでは、『ポケットモンスターSPECIAL』における登場人物の一人であるマチスという男についてまとめていきたい。  『ポケットモンスターSPECIAL』を主体とし、この作品の原作となったゲーム「ポケットモンスター」シリーズも踏まえ考察していく。

01. 『ポケットモンスターSPECIAL』のマチス

第一章 赤・緑・青編

第一巻

 初登場は第十話「VSビリリダマ」(131頁)である。クチバシティのジムリーダーであり、サントアンヌ号を使いグレン島に荷物を運ぶ事が彼の仕事だという事が判明する。船に忍び込んだレッドに対し、ビリリダマを使い彼のニョロゾにダメージを与える。

「フフフ。ダメージが後からきたようだな。」
「水は電気を最もよく通すからなあ。」
「さあて招かざる乗客には厳しい罰を与えるのが、 我がサントアンヌ号のしきたりでね。フフフ…。」

 マチスとレッドの戦いは第十一話「VSエレブー」(145頁)で決着が付く。ポケモンの盗難を救出と言い張り、悪びれる様子は見えない。この時のコマの顔が最高に可愛いのである。

「オレたちはなあ、平和ボケしちまってるカワイソーなポケモンを救出してやってるのさ。」
「ついでにその報酬としてちーっと、もうけさせてもらってるだけだ!!ウワハハハハハ。」

 ここでマチスが使用するポケモンは主にエレブーである。彼の手持ちの中でもとりわけ凶暴であり、ボールに入れる事もままならないと評価される。両手足を鎖で繋がれ、対侵入者用の番犬として船を守っているようだ。凶暴と称されているが、マチスの言う事には従っており、”かみなりパンチ”、”10まんボルト”でレッドとニョロゾを追い詰める。人間に対し(しかも子供)容赦無くポケモンの技を使う外道っぷりが悪役然としている。
 レッドが叫ばなくなるまで10まんボルトを浴びせた後は海に投げ捨てている。浮んでこないレッドを見、「フフフ…、死んだか。」の一言である。マチスには情けも容赦も無い。
 エレブー以外にもコイル、レアコイルを使用している。前者は逃げ出したレッドを甲板まで誘導する為に船に配置し、後者はニョロゾを戦闘不能に、またレッドを捕まえる為に使用している。レアコイルを四体使用し、三角錐型の電気の檻を作り出す。この檻は空中に浮かんでおり、第二章以降は主にマチスが空を飛ぶ為に使用されている。

「ガハハハハ! 有刺鉄線よりキツイ電気のオリだ! 脱出は不可能だな。」

 この戦闘中、マチスが戦闘不能になったニョロゾを片手で持ち上げ海に投げ捨てるシーンがある。ニョロゾは20.0㎏あり、このシーンよりマチスが体を鍛えている事がうかがえる。外国の元軍人であり、他のキャラクターと比べて体格よく描かれているので、今でも筋力トレーニングを欠かさず行っているのではと推測する。
 勝敗については、海に投げ捨てたレッドのニョロゾがニョロボンに進化し、レッドを助け甲板に戻って来た所で”ちきゅうなげ”を受け、マチスはエレブー諸共吹っ飛ばされ行方不明となる。やる気満々のエレブーに比べ、逃げ腰のマチスが印象深い。

「う…。ま…まかせたぞ、エレブー。」

 動作として、腕組み(右腕が下)、腰に手の甲を当てる、指差し、フィンガースナップなどが見て取れる。ポケモンに指示する時に指を鳴らす動作をよくしている。


第二巻

 レッドとの勝負に負けた後、マチスは暫く本編に顔を出さない。次に出てくるのは二巻第二十六話「VSファイヤー」(165頁)である。無人発電所に赴きサンダーを捕らえた事をサカキに報告しているコマがある。ファイヤー、フリーザーは既にロケット団の手中にあり、マチスがサンダーを捕まえた事で切り札三体が揃った形となる。サンダーも嫌々捕まっている様子は無く、マチスとアイコンタクトを取っている。エキスパートが電気という事もあり、サンダーとマチスの相性は悪く無かったのではないだろうか。

「サンダーをとらえましたぜ ボス!」

 ちなみに、フリーザーはキョウ隊の中隊長であるハリーが中心となった下っ端が捕獲を試みている。ファイヤー捕獲に関しての詳しい描写は無いが、ナツメ隊の中隊長であるリョウが使用している。あまり根拠の無い推測ではあるが、キョウ、ナツメはこの二体の捕獲に関して直接的に手を出していないのではないだろうか。それぞれふたご島、セキエイ高原まで中隊長に指示し、ポケモンを貸し、捕獲を命令していた可能性がある。
 自ら無人発電所に赴きサンダーを捕獲するマチス、好きだ。


第三巻

 物語は最終局面を迎える三巻第二十八話「VSバリヤード」(7頁)、レッドとグリーンが協力しヤマブキシティを覆っていたバリヤードのバリアを突破する場面がある。走り出したグリーンの「敵は…どこだ!?」の一言に、シルフカンパニー本社の一室から見下ろすマチスが「ここだぜ。」と答えている。律儀で地獄耳。このコマのマチスがとても格好良い。
 続く第二十九話「VSゴルバット」(21頁)では、グリーンと分断されたレッドの前にロケット団三幹部の一人として現れる。両肩にレアコイルを乗せ、マルマインとビリリダマを付けたサム・ブラウン・ベルトの様なものを装備している。更に背中にはエネルギー変換機を背負っている。

「そうだ!オレ様だ!!」
「ロケット団三幹部のひとり マチス様だぜ!!」
「あんときゃあよぉ、よくも邪魔してくれたなぁ、クチャ…クチャ。」

 このマルマインとビリリダマはロケットランチャーでマチス自身が発射する為のポケモンである。パワー不足を補う為のランチャーはロケット団の科学技術によるものであるとマチス自身が口外している。ちなみに両肩のレアコイルはソニックブームで防御壁を作り出している。レアコイルは60.0㎏、マルマインは66.6㎏、ビリリダマは10.4㎏である。マルマインやビリリダマは通常個体よりも小さくモンスターボール並の大きさで描かれている為、図鑑通りの重さではないと考えられる。しかし、それを考慮してもマチスがいかにゴリラパワーを秘めているかという事がうかがえるだろう。
 クチャクチャ言っている台詞があるが、この時マチスはどうやらガムを食べていたらしい。急に外国人である事を思い出したかのような立ち振る舞いが愛おしく感じた読者もいる事だろう。
 マチスとレッドが対峙する特別室は、部屋の壁全体に電流が張り巡らされている。電気ポケモンの攻撃力が二倍、三倍になるとマチスは言う。エレブーとライチュウも後ろに控えているが、彼らがこの戦闘に参加する事は無かった。

「文字どおり、電流デスマッチというわけだ!!ワハハハハ!」

 コイル二対にレッドを拘束させ、ランチャーから発射されるマルマインをレッドの体に叩き込んでいるシーンがある。このマチスと言う男、ポケモンバトルをする気が無いのだろうか。マルマインの攻撃に部屋の壁全体の電流を受ける事になるレッドが、「ジムリーダーのくせに、なんでロケット団なんかに味方する!!」と問いかけている。これに対し、マチスの持論は力が全てだと強く主張している。

「ん?ジムリーダー?ああ、そんなことをしてたときもあったなあ。」
「つまらねえジム暮らし…!マジメにポケモンきたえて戦って…、」
「そんなもんナニになるってんだ!?あーん!?」
「そうさ!力だ!!」
「でっけえ力があれば、いろんなことができるんだぜ。」

 元軍人であるマチスだからこそ、比較的平和なジムリーダー生活に飽き飽きしていたのかもしれない。ロケット団という組織を何処で知ったのか気になる所である。 マチスが講釈を垂れている間、レッドのピカチュウがマチスに対して電気エネルギーを発射する。マチスは電撃を受け悲鳴を上げるが、次のページで舌を出し「なあんちゃって。」とおちょくった表情を見せる。この顔が最高に可愛いのだ。
彼はこの時、上下共にゴム製のアンダースーツを纏っていたのである。第二十八話の最後に出てきたマチスは白いインナーであったので、レッドとグリーンがシルフカンパニーに乗り込んで来た事を確認してから着替えたのだろう。オープンフィンガーのグローブもこの時初めて装着している。レッドに敗れた後奪われてしまうが。

「敵の本拠地だ。こんくらいのことは予想しとけよ、レッドさんよぉ!!」
「このビルは、あらゆるしかけがオレたちに力をかすぜ!!フフン。」

 この後もレッドに猛攻を仕掛けるマチス。最初からパワー全開の連続攻撃に、エネルギーが無くならない事を疑問に思ったレッドを見透かしてか、エネルギー源を自ら答えてくれる。

「ワハハハハ!知りたいか!?こいつらの攻撃が そしてオレ様の鎧が、」
「どうして底なしのエネルギーなのか、知りたいか!?」

 マチスのポケモン達、更に部屋の電流のエネルギーの供給をするサンダー。やはり電気のエキスパートを豪語するだけあってサンダーも大人しく従っているのだろうか。今まで見てきたマチスは、人間性は最低だが実力者には違い無いのである。

「どーだーっ!クソ真面目にトレーニングするやつなんざ、大バカヤローだってわかったかー!?」
「ウワハハハハハ!!」

 上記の台詞より、前述したマチスは筋トレをしている説が否定されてしまった。非常に残念である。努力が実を結ばなかった過去でもありそうな台詞だが、軍人時代に何があったのだろう。少佐止まりと何か関係があるのだろうか。
マチス戦最終話である第三十話「VSサンダー」(36頁)では、サンダーに指示を与えレッドを追いこんでいる。使う技が”でんきショック”という点は、レッドをコケにしているのか、それともサンダー程のポケモンが使う”でんきショック”は相当の威力という事なのだろうか。フシギソウの葉っぱを散らせていい気になっているマチスに、レッドは”はっぱカッター”を指示する。その心は、サンダーを倒す為ではなくマチスのアンダースーツを破る為である。サンダーとエネルギー変換機を繋ぐケーブルも切断し、サンダーの電力はマチスの体にヒット、黒焦げになりレッドの勝利となる。フシギソウとレッドの心が通じていたお蔭で、レッドはマチスに勝利する事が出来たのだ。

「…いっくら強いポケモンをつれてたって、いっくら力があったって…。」
「ポケモンと仲良くできなきゃ楽しくないのに…。」

 上記、レッドに言われた言葉がマチスに届いていてほしいと願わずにはいられない。
 ちなみにサンダーだが、視線がマチスだったりマチスを感電させた時に汗をかいていたりしてとても可愛い。後にキョウの口から語られる四個のジムバッジのお蔭で制御していたという設定を忘れていたので、時々記述してきたサンダーとマチスの関係性も忘れて頂きたい。
しかし、三幹部の中で唯一エキスパートがマッチしたサンダーとマチス、夢くらい見させて貰っても良いのではないだろうか。 全ての戦いが終わり、ファイヤー、サンダー、フリーザーの三体が解放され、シルフカンパニーが倒壊する。倒れたビルの下敷きになったというエリカの台詞があるが、これは誤りである。マチス、キョウ、ナツメの三人は包囲網を掻い潜り逃げ延びていたのだ。 三幹部の彼らが登場するのは第二章の後半からになる。



第二章 イエロー編
第一章から二年後のカントー地方。四天王という脅威に脅かされている。

第五巻

「四天王~!? オレたちをあんなケチな連中といっしょにするんじゃないぜっ。」

 およそコミック二巻分の空白を経て、四天王との決戦の地であるスオウ島に上陸したカツラとグリーンの前に現れた三幹部。第六十五話「VSワンリキー」(177頁)だ。
 エレブー、ベトベトン、フーディンの姿を見たカツラが勘付き、その奥に立っていたマチス、キョウ、ナツメの三人の姿を映し、第五巻は終了する。態々ポーズを取り待ち構えている三幹部がとても可愛い。ちなみにマチスは、ゴム製のアンダースーツは着用していない様子である。

第六巻

 第七十話「VSフーディン」(70頁)、イエローとブルー、マサキがスオウ島に乗り込み、三幹部とグリーン、カツラと合流する。ここで漸く、彼らがスオウ島にいる理由が話されるのだ。勿体つけていた時間が気になる。

「「敵の敵」は「味方」…というわけだ。」

 何故だか知らないが三幹部全員楽しそうに笑っているシーンが印象深い。驚き戸惑う主人公側がそんなに可笑しかったのだろうか。ドッキリが成功して喜んでいる風にも捉えられる。
 協力する事になり、ナツメがチームを分ける為にスプーンを配る。「ナツメよ、”運命のスプーン曲げ”…というわけか。」というマチスの台詞の後、ナツメはフーディンにスプーンを曲げさせチームを決めていく。この時、マチスのスプーンは曲がらないのだ。同じく曲がらないマサキに、戦う意思の無い者や組むべき相手がいない場合には反応を示さない、と説明が入る。キョウがグリーン、ナツメがブルーとペアになった所を見て、自分の相方はレッドとなる事を確信するマチス。結構レッドの事を評価して気に入っているのではないだろうか。ここでスプーンを胸ポケットに仕舞う動作が細かい。
 スプーンが曲がらなかった者同士と言う事でマサキを小脇に抱えて楽しそうに洞窟の奥に行くマチス。不安そうにマサキを見ているエレブーがとても可愛い。
 「ずん」や「のっし のっし」と効果音を付けられているマチスから、彼の動作音は相当大きいという事が推測出来る。体格の良さ、性格の荒さが見て取れる。

「オイ!オレも曲がってないぜ。」
「キョウやナツメと同じ理屈で言やあオレの相方はレッド…ってことになるがな。 ウワハハハ、まあいい。」

 前巻でクチバシティがワタルによって襲われているのだが、その事に怒りを露わにするマチスは第七十三話「VSモルフォン」(113頁)で見られる。

「四天王のやつら誰でもいいから出てきやがれ。
オレのジムのあるクチバをあんなふうにしやがって!!」

 前章でジム職を下らないとこき下ろしていたマチスだが、やはり自分のテリトリーであるクチバシティが荒らされると頭にくるらしい。マチスの横に並んで一緒に怒っているエレブーがかなり可愛い。二年も戻っていない町に執着があるという事実が、マチスという男の性格を考察する上でどう影響してくるだろうか。
 続く第七十四話「VSコイキング」(131頁)では、マチスとマサキは四天王のひとりであるシバと対峙する事になる。下は脱出困難な水性粘液、足場は動き回るイワークというフィールドで、バトル慣れしていないマサキと勝負するマチスの腕の見せ所だ。

「上等だぜぇ、四天王シバよ!オレはクチバジム
ジムリーダー、マチス!!この勝負、乗ったぜ!!」

 シバのポケモンをイワークだけで”じめん”、”いわ”であると推測し、ロコンを使うマサキと手持ちの電気タイプの相性を考え不利であると考えるマチス。マサキに対し、「オイ、おまえ、何か作戦考えろ!大学出てんだろ!!」と無茶振りをする。到底ジムリーダーの台詞とは思えない。しかしこの台詞は大好きだ。
 シバとの戦いは更に続く。第七十五話「VSマルマイン」(145頁)では、エビワラーとサワムラー二体を押し返すエレブーが描かれている。格闘タイプ二体に負けないパワーを秘めているエレブーはやはり凶暴と称されるだけあるのだろう。しかし、水性粘液に落ちそうになったロコンを助けたエレブーに理性的な一面も見てとれる。もうわかんねえなこれ。
 カイリキーと戦うポケモンは、と訊ねられ、マサキの手持ちを考慮して一瞬で作戦を考えつくのがマチスという男である。前話の無茶振りは何だったのだろうか。
 態度も声もデカいと思われるマチスだが、マサキに作戦を耳打ちするコマから、内緒話の為に声量を抑える事も出来る事が分かる。
 マサキのタマタマの”たまごばくだん”、”たまなげ”をマチスのマルマインの”じばく”で誘爆する爆弾コンビでシバとイワークを倒す事に成功した。

「BOMB…だ!」

 イワークが崩れ自分たちも水性粘液に落ちそうになるが、マチスのレアコイルが待機していた為マチスとマサキは事なきを得る。マサキの手持ちにタマタマが居る事を知ったのはつい先ほどだったので、この短時間に作戦を思いつき実行出来たマチスはやはり伊達に軍人、ジムリーダーを経験していないという事だろう。自分自身よりもマサキとポケモン達をレアコイルの救助ポットに入れてあげる優しさもうかがえる。「This is the electrical pod.(電気の救助ポッドだぜ)」と、ニッと笑うマチスのコマ、小さいながらもしてやったり顔がとても格好良いので必見である。
 マチスの行動として、片目ウインク、サムズダウン、唇を舐める等の動作が見られる。サムズダウンについてはマルマインへの”じばく”指示もあるだろうが、「敗れた人間を殺せ」という意味もあるのであながち間違いではないのかもしれない。此処でも外国人を意識しているのではないだろうか。また、気が立っているからか、「ギロリ」と睨みつける効果音が用いられがちである。目付きが悪いので目力は強い方だという解釈で良いだろう。
 シバに勝利したと安心したのも束の間、第七十八話「VSフシギバナ」(187頁)では救助ポットに上ろうとするマチスをシバのサワムラーが捕捉し、粘液に引きずり込もうとする。レアコイルに引き上げさせるも、サワムラーのキックでやられてしまう。落ちる寸前、見覚えのある蔓がマチスの体に巻き付き、更に運命のスプーンが激しく反応し出す。遅れてやって来たレッドが、フシギバナを携え助けに来たのだ。しかしこのレッドという男、マチスに散々痛めつけられた事やロケット団だった事を忘れているのだろうか。ピンチの人間が居たから助けただけなのだろうが、「大丈夫か!?マチス。」と声まで掛けてあげているのだ。マチスも「おう、なんとかな。」と普通に答えている。旧友か。

第七巻

 第八十四話「VSピクシー」(79頁)では、レッドがシバと一騎打ちを望むためマチスは戦線離脱する。

「たしかにレッド、おまえが今、ここにやって来るまでに、オレは相当力を使っちまった。今からフルパワーで戦えるとは言えねえが…。」
「ヘッ、変わらねえなレッド。やめろと言われても…聞くわきゃあねえよな。」

 マチスが、自分を打ち負かしたレッドに一目置いている事は分かる。シバと一対一で勝負を付けたいと主張するレッドに対して理解を示し素直に従うマチスは、話の分かる男である。恐らくこのレッドの主張に対し思う事があるのだろう。ただ単に四天王を倒せればそれで良いと考えていただけかもしれないが。ここでも指を鳴らしてレアコイルに自分を迎えに来させているので、フィンガースナップは癖だと捉えて良いだろう。
 シバとレッドの決着が付いた第八十五話「VSシェルダー」(100頁)では、レアコイルのポッドに入れていたマサキをレッドの上に落とし意地悪そうに笑っている。

「一組につき四天王一人撃破がノルマだったろ。」
「オレはナツメやキョウと合流させてもらうぞ。…アバヨ!!」

 マサキは怒りを露わにし、マチスに声を荒げている。対するレッドは怒っている様子も無くマチスを見上げている。レッドは寛大すぎるのではないだろうか。ちなみに、この時のマサキの台詞に「な…なんちゅう…! やっぱりロケット団や!! ちょっとでもいいやつかと思うて損したでえ!!」というものがある。助けてくれた事への感謝が見て取れるマサキが可愛いのだ。
 レッドは自分の我儘であるシバとの戦いを邪魔しないでいてくれた事、マサキを守ってくれていた事を考慮して何も言わなかったのかもしれない。そもそもマチスがロケット団であり、意地悪な人間だという事を知っていたからかもしれない。
 そして第二章終盤、マチスは念願の首領(ボス)サカキと対面する。第九十話「VS???」(181頁)、立ち去ろうとするサカキに、ナツメと合流したマチスはクソデカボイスで話しかける。

「首領!!待ってください!!」
「きっと会えると思ってましたぜ、首領。」
「オレたちはこうしてずっと組織復活の準備をしてきた。今こそ一緒にまた暴れましょうぜ。」

 しかしサカキの返答は冷たい物だった。修行の途中だと言うサカキは、マチスとナツメに「自分のジムでも守ってろ!」と言い去り、彼らはサカキのこの言葉を守りジムに戻ったという。
 ガキの手を借りて四天王を倒す事が復活の準備か、と指摘するサカキはあまりにも側面的にしか捉えていないのではないだろうか。本来であればクチバで四天王を倒す予定だった三幹部の事、もう少し気遣ってくれても良かったのでは……と考えてしまうが、それはそうと素直にジムリーダーの職に戻るマチスとナツメは可愛い。



第三章 金・銀・クリスタル編
 舞台はジョウト地方へ。クリスタル編からマチスが暗躍している。

第十巻

 金銀編ではマチスの出番は無い。そもそもゲームに出ていないので出番は無くて良いのだが、何故かクリスタル編の始まる十巻から顔を出し始める。第百二十一話「VSサニーゴ」(68話)では、つながりの洞窟でレアコイルの罠を張るマチスの姿が拝める。この時点でアクア号の船長(不確定)を兼任している事が判明した。

アクア号
 カントー地方とジョウト地方を結ぶ新型高速豪華客船。
 月・水・金にアサギシティから出向している。時々マチスが私用で出航させているらしい。

 シューティンググラス、オープンフィンガーグローブ、ユーティリティポーチ、デューティーベルト等、軍人というよりはサバイバルゲームの参加者の様な出で立ちをしている。タクティカルブーツも前章とは異なったデザインのものを使用している。
 小型の潜水艇に乗り、「秘密通路」と呼ばれる海底洞窟からつながりの洞窟へと足を運んでいる。この「秘密通路」を勘付かれないように見回りをしていたのだろうか。
 アクア号へと乗り込もうとした瞬間、マチスの乗る潜水艇はサニーゴに捕まり浮上できなくなってしまう。レアコイルが誤って捉えたクリスタルのお蔭でサニーゴを捕獲、彼女をアサギシティまで送っていった。
 「SHIT!!」、「OH MY GOD!」等、更に外国人設定を思い出す口調をしている。クリスタルの事を「嬢ちゃん」と呼び、以前よりも気の良い男として描かれている。

「よォッ!嬢ちゃん、アサギの港が見えて来たぜ!!」
「さっきはありがとよ!さ、降りる準備だ!!」

 部下の一人に少佐と呼ばれ、更に「マチス様」と呼ばれる。この船乗りはロケット団として活動していたマチスをよく知らない様子である。アクア号の一船員なのか、それともマチスの部下なのか。どちらにしても口は軽そうである。
 マチスの大声吹き出しは健在である。いや、更に声がでかくなったかもしれない。

第十一巻

 各地に現れるスイクンにジムリーダーや実力者たちが奮闘している間、どうやらマチスはロケット団が原因とされるジョウト地方の事件を調査していたらしい。第百三十九話「VSライチュウ」(134頁)はマチスが中心となって話が進んでいく。いかりの湖で仮面の男に敗れたゴールドとシルバーの痕跡を見つけ、エンジュジムのジムリーダー、マツバの千里眼を頼りに彼らの所在を探る。
 ロケット団の名を語る身内以外の存在に気付いたマチスは、チョウジタウンの土産屋に足を運ぶ。そこで地下に怪しい施設がある事を付きとめた。自身の電気ポケモンにより狂った電気機器のハウリング音を聞き逃さない抜け目の無さ、単身で敵地に潜入する際の心構え、敵を巻き込む自爆の準備等、元軍人設定が生かされた戦い方を見せてくれる。仮面の男と対峙する人間は主人公達以外では初である。
 少なくとも十七体のマルマインによる”じばく”により危機を脱するが、その中心源に居たマチスのタフさには驚かされる。意識のある状態でボロボロになったマチスという姿は、実はこの時が初出である。
 第百四十話「VSドードリオ」(151頁)では、引き続きマチスのターンである。既に満身創痍の身を潜水艇に押し込め、怪しげな気泡の浮かぶいかりの湖の中へと潜り込んでいく。この時潜水艇に乗りこむ効果音が「ドカッ」である事から、生活音の大きいマチスは健在だ。
 赤いギャラドスと一瞬だけ対峙するが、ギャラドスがマチスよりも氷漬けになったシルバーたちの荷物に向かっていく。そこで仮面の男の言葉を思い出したマチスは、その荷物の回収をする事になる。リュックの中身にあるポケモン図鑑を見つけ、その持ち主を探すことに決めたのだった。
 第百四十一話「VSベロリンガ」(166頁)、百四十二話「VSテッポウオ」(182頁)はマチスが運命の男と出会う必修事項なので原作を読む事をお勧めする。
・マチスがナツメを身内認定している所
・うわさに聞いたマツバを待ち伏せしている所
・図鑑所有者にある種の信頼を抱いている所
・仮面の男との再戦を考えている所
・不意打ち、待ち伏せ戦法が出来る所
 上げれば上げる程キリが無いので割愛したい。一部だけ述べさせてもらう。
 不意打ち戦法については、マツバの「見えないものも見える」という能力を考慮して、更に彼の上を行くライチュウの配置には称賛を送りたい。無論、今、マチスがマツバのムウマの”サイケこうせん”を受けたらひとたまりも無い事は彼自身が承知の上での行動であるだろう。ライチュウの尾を付きつけられながら、マツバも一度冷静になりマチスの状態を確認して警戒を解く所がまた格好良い。硬直状態からどちらともなく笑い始めるマツバとマチス、もうこの時点で相当業が深い。
 アクア号での仕事で稼いだ金を汚い金では無いと理解された時のマチスは、心成しか嬉しそうに見える。あっさりと依頼を了承するマツバも話が分かる男で良い。この時点でマチスからマツバへの信頼はある程度、いや、相当生まれているのではないだろうか。逆もまた然りである。マチスはマツバを話の分かる千里眼野郎、マツバはマチスを不躾ながらも至って普通の依頼人、お互いの評価が可愛い。マツバがマチスの過去を(恐らく)知らないという点も中々高ポイントではと考える。
 千里眼を発動する際に「少し離れていてくれ」と注意されたにも関わらず、いざ持ち主の居場所が分かり始めると近寄ってきたマチスがとても可愛い。十一巻はゴールドとシルバーの居場所を突き止めて次巻に続く。


第十二巻

 マツバに描いて貰った地図を頼りに、一仕事終えたアクア号でうずまき島を訪れるマチス。第百四十五話「VSサンドパン」(41頁)ではゴールドとシルバーの荷物を持ったマチスが空から二人の前に現れる。ゴールドからは常に「おっさん」呼ばわりされているが、マチスに気にした様子は見られない。十代から見れば何歳でもおっさんなのかもしれないが、マチスの年齢が気になる所である。

「ちょーっと待ったあ!!」
「手をつける前に礼くらいしろよ!」

 上記の台詞を吐くマチスの顔がとても可愛い。初めて見る表情である。第三章に入ってからマチスが様々な表情を見せてくれる。愛しい。
 ゴールドとシルバーを探しに来たマチスの目的は仮面の男の情報である。聞き出そうとした所で、アクア号が宙に浮いている事をシルバーに指摘され、更にルギアと接触する事になってしまった。
 第百四十六話「VSルギア[全編]」(54頁)では、空を飛べないゴールドにレアコイルの相乗りを強制され、仕方無くルギアと対峙するマチス。クリスタルの時もそうだったが、このマチス、主人公達に割と振り回されがちである。
 ゴールドから仮面の男の話を聞いた時、氷の使い手だと告げられたマチスはデルビルにやられた自分をどう思ったのだろう。コケにされたと感じただろうか。頭に来てほしいところである。
 クリスタルを見つけたゴールドがレアコイルから下りる際、「あん!?」「おいこら!」と声を荒げている。この男、実は結構喘ぐのだ。
 ゴールドが居なくなり一人でルギアと対峙するマチスは、第百四十七話「VSルギア[中編]」(69頁)でルギアの攻撃を冷静に分析する。ルギアの専用技である”エアロブラスト”の仕組みを考察し、その技名の名付け親となる。名付けた瞬間、マチスの乗るレアコイルの一体が”エアロブラスト”でやられそうになってしまう。呑気に分析して名前を付けている場合ではない。
 ルギアに関してはゴールド、シルバー、クリスタルの奮闘により事なきを得た。 第百四十九話「VSキングドラ」(97頁)では、無事海に戻されたアクア号にマチスが戻って来るシーンがある。

「ひでぇ目にあったが、一応の成果はあったぜ。」

 船に戻るや否やポケモン協会から通信で本部集合の伝達を受けるマチス。クチバシティのジムリーダーという肩書はきちんと協会の許可を得ていたのである。そしてこの緊急招集こそ、カントーVSジョウトのジムリーダー対抗戦への布石なのだ。
 セキエイ高原ポケモンリーグの開催は三年に一度である。つまり二章から一年しか経っていなかったという事だ。一年足らずでアクア号の船長(不確定)になりジムリーダー職も全うし、ジョウト地方の情報収集に勤しんでいたというのだ、このマチスという男は。
 第百五十四話「VSヤンヤンマ」(169頁)では、セキエイ高原でジムリーダー対抗戦が始まろうとしていた。闘技場が二つに分かれ、オープニングセレモニーを同時に開催する「リニアモーターシステム」の列車から十六人のジムリーダーが下り立つのだ。一堂に会するカントー、ジョウトのジムリーダーとその相棒ポケモン達の見開きは誰もが見たかった映像ではないだろうか。見るところが多すぎて言葉にならないので割愛させていただく。ド真ん前に陣取ったマチスは本当に可愛い。ちなみに、リニアから下りる時一番に降りている描写がある。楽しみか。

「エレキショックネイビー!! 猛き稲妻、船乗りのマチスはクチバのリーダー!!」

 この肩書きはラジオ局の人が考えたのだろうか。マチスの事をこんな風に評価してくれるとは、感謝の気持ちで一杯である。ジョウトのジムリーダーは結構雑な感じで纏められているのに対し、カントーは全体的に個性を強調しており聞いていてワクワクしてくる。マツバの情報が千里眼だけであるところを見るに、肩書きを考えたのはもしかしたらカントー贔屓の人間かもしれない。
 七色のぼんぐりを引いて同じ色同士がポケモンバトルを行うのだが、ここでマチスが引く色はきぼんぐり。同じ色を引き当てたと近寄るのはエンジュジムのマツバである。本当に偶然なのだろうか。マツバもマチスとは戦いたいと思っていてくれたらと願わずにはいられない。逆もまた、然りである。
 対戦カードが出揃い、其々がベンチに戻るシーンがある。マチスは真っ先に真ん中を陣取り図々しく座り込んでいる。ナツメとアンズに挟まれているのである、ナツメは隣だとしても、マチスの左隣に座りたいと思う人間はあまり居なかっただろう。よく見れば普通に対戦順に座っているのだが、背凭れに両膝を掛けて一人だけスペースを使うマチス、ふてぶてしいにも程がある。好きだ。
 この十六人の中に仮面の男が居る、という話なのだが、最後に一ページを分割してジムリーダーが描かれている。このマチス、肩幅が広すぎてスペースいっぱいに描かれているのだ。マチス以外だとシジマもギチギチである。本当にガタイの良い男である。

第十三巻

「さーてと!次はオレの出番か!行ってくるぜ!!」

 第百五十七話「VSコイル」(43頁)は超必修科目になる。マチスとマツバの一騎打ちはこの対抗戦の中でも群を抜いて熱い試合となっている。主観が含まれてしまうがご容赦願いたい。マチスとマツバ、二人の試合に掛ける情熱は必見だ。
 いきなりエレブーが”かみなり”を連発するシーンから始まる。ムウマに交代したマツバだったが、そのムウマも”かみなり”を受けてしまう。このままマチスがあっさりと勝利を収めてしまうと思われたが、とどめの”かみなり”が出せず狼狽えるエレブー。この時のエレブーが最高に可愛い。交代前のゴースに”うらみ”を掛けられていたエレブーは、とどめの為のパワーポイントが無くなってしまっていたのだ。更にマツバの反撃は続く。ムウマの”いたみわけ”によりエレブーの体力はあっという間に削られ、一瞬にしてマツバのペースに持って行かれてしまう。

「前に会った時から思ってたが…、てめえヤサ男みたいな顔(ツラ)して、なかなか根性がすわってるじゃねえか!」
「この展開に持っていくために、最初にあえて大きくダメージを受けたんだろ!?」
「何か背負ってねえとできねえよな!?」

 このマツバへの評価が、マチスという男を理解する上でも重要になってくるのではないだろうか。観察眼が優れている点と、マツバの戦闘スタイルを否定しない点に好感が持てる。
 コイルへと交代したマチスは、ムウマの”サイコウエーブ”に防戦一方である。このままでは埒が明かないと、純粋な力比べで勝敗を決めようとする。

「オレの電磁とお前の念波!どっちが強いか!?」
「勝負だ!!」

 防御に徹していたコイルの最大出力の“でんじほう”をムウマとマツバに打ち込んだ瞬間、誰もがマチスの勝利を確信していた。ナツメを筆頭に、カントーのジムリーダー達、観客の多くもそう考えていたのではないだろか。
 しかし第百五十八話「VSストライク」(57頁)では、ムウマと同時にコイルも戦闘不能となってしまう。ムウマが倒れる前に指示していた”みちづれ”は、負けない為にはこうするしかなかったとマツバは語る。マツバのエキスパートであるゴーストは、相手の内側に忍び込み、技や体力を奪い取る。実にマツバらしい結末である。負けられない戦いに決着を付けなかった点はお互いにしこりを残していてほしい。しかし、この試合は両者共に認める良い戦いであった。マツバが差し出した手を払いのけるマチスは、ガラでも無いと口にしている。仮面の男を探している、それがマツバでは無いとも言い切れない、と続けるが、これは本心では無いのではないだろうか。

「オレはある男を探している!
そしてそいつが今この会場にいるかもって話がある以上…、」
「おめえじゃねえとも言えねえってこった!」

 恐らくマチスは、ゴールドから仮面の男が氷使いと聞いてヤナギを怪しんでいたのではないだろうか。氷使いだと知っているのは、この時点でゴールド、シルバーの他にマチスしか居ない。ヤナギを見ている(ように見える)コマもあるので、マツバに対して述べた台詞は嘘だと推測できる。
 握手を拒まれたマツバがむっとした表情でマチスを見ているコマは、この二人にまだ何かあると思わせる。しかし、この第三章での二人の話はこれで終わりなのだ。絶望である。
 第165話「VSルギア&ホウオウ[前半]」(157頁)では、シャム&カーツによって操作されたリニアが会場内に乱入してくる。リニアの中にロケット団の残党員が乗っている事に気付くと、マチスとナツメは真っ先にリニアへ乗り込むために駆けだしている。ジムリーダーは全員、観客を守るために残党員と共にリニアに乗り込み、そしてリニアは再び走り出してしまった。全ては仮面の男の計画通りであり、ジムリーダーを隔離するための作戦であったのだ。
 そして戦いは次巻へと続く。


第十四巻

 他のジムリーダーがロケット団残党員と戦っている最中、マチスは直属の部下である  ケンと対峙していた。第168話「最終決戦Ⅱ」(19頁)では、操られた中隊長三人のケン、リョウ、ハリーを説得すべく必死に声を掛けている。

「ったく、てめえら何勝手なことしてやがんだ!?」
「おまえはオレの中隊をまかせていた直属の部下だろーが!! ケン!!」
「ハリーとリョウ!!てめえらもだ!!オレたちの首領はサカキ様だろ!?」
「首領がいねえからって、わけわかんねーヤツにいいように使われやがって!!」

 マチスの説教にも動じず、操られたままのケンはオクタンに”オクタンほう”を命令する。この攻撃が腹部に命中したマチスは、一瞬自分の声も忘れたか……と弱気になるが、直ぐに「操られているだけだ!!」とケンのマスクに手を掛ける。
 更に説得を続けるマチス。

「自分の意思をなくしちまったおめえらは、「牙」を失った獣よ!!」
「思い出せ!オレたちは「牙」だったはずだ!!」
「中隊長を張っていたおめえらなら覚えてるだろう!?」
「組織を結成したあの日、首領が言った言葉を!!」

 マチスは声を張り、汗をかき力を込めケンのマスクを剥がそうとする。

「Raid On the City, Knock out……Evil Tusks…」
(町々を襲いつくせ、撃ちのめせ悪の牙たちよ)

 サカキがロケット団結成時に彼らに伝えた言葉は、マチスの、ロケット団の誇りだったのだ。譫言の様に呟き唸る中隊長たちに、マチスは声を荒げる。

「そうだ!あの時首領が言った団員のあり方!!」
「その頭文字を取ったものがそのまま組織の名前になった!!」
「取り戻すんだ!! オレたちの誇りを!!」

 このマチスの言葉により、中隊長たちを操っていた仮面は粉々に砕け散った。この破片がリニアの接続部を突き破る勢いで飛び散っている。危ない。
 正気に戻ったケン、リョウ、ハリーに、マチスは鼻の下を擦りそれで良いと口にする。

「フッ、ようやく思い出したか。それでいいぜ!そして…。」
「この場はおまえらにまかせるぜ!!おまえらがすべての団員の目をさまさせるんだ!!」

 先程まで操られていたにも関わらず、マチスはその他のロケット団団員を中隊長三人に任せる。余程信頼しているのだろう。怒りもひとしおである。
 マチスはどうするのかとハリーに訊ねられ、セキエイに戻ると答えるマチス。

「オレは会場に戻る!!この列車騒ぎではっきりした!」
「仮面の男はリーグを混乱させる目的で闘技場に入り込んでいる!!」
「おめえらをコケにした仇はオレがとってやる!!」
「あばよ!!」

 この最高に格好良いシーン、第三章のマチスの一番の見せ場と言っても過言ではないだろう。彼らを乗せるリニアのスピード感と相まってとても良いテンポで話が進んでいく。片手にスーパーボールを持ち後方車両をセキエイ会場へと逆走させる為に動くつもりなのだろう。しかし、前方車両の事を考えず勝手に分断し、更に前方車両は加速を続ける状態になってしまった。この先は行き止まりであり、このままでは衝突してしまう。マチスの所為である。
 続く169話「最終決戦Ⅲ」(33頁)では、ジョウトのジムリーダー達がロケット団残党員との戦いに一息吐いているところに上着を脱いだマチスが現れる。殆どの残党員が前方車両にいたため、後方のロケット団の数はあまり多くなかったらしい。知っていて切り離したのだ、マチスという男は。「You see!?」ではないぞ、マチス。ウインクするんじゃあない。
 切り離した!? と驚くアカネに、マチスは得意げに話し始める。

「ああ、このオレがな。」
「そして、すでにこの後部車両は逆走を始めているぜ!セキエイに戻るべくな!!」
「フッ、リニアといやあ磁力で走る列車!そして磁力を生み出すのは電気エネルギー!」
「オレのエキスパートは?」

 「電気」…。そう答えるのはマチスと対抗戦で戦ったマツバ。リニアを動かすためのパワーの在処を気にするツクシに、マチスは手にしたスーパーボールを掲げ「ここだ!!」と言い放つ。彼の持つボールの中には、ライコウの姿があったのだ。ボールから溢れる電撃はライコウの電気エネルギーの壮大さを窺える。マチスが絶縁グローブを付けていなければ持っている事すら出来なかっただろう。
 カツラの口から語られる、ライコウがマチスを選んだ理由はあながち間違いでは無いと思われる。ロケット団団員を仮面の男に利用されて怒っているマチス。ホウオウを仮面の男に良い様に扱われ怒っているライコウ。エキスパートという点でカスミを選んだスイクン、カツラとエンテイのビジネスライクな関係の描写も良かったが、ライコウとの経緯を一切明かさない男がマチスである。一体いつ捕まえたのだろう。
 ライコウはイエローによって目覚めてから、ジョウトで暗躍するマチスに目を付けていたのではないだろうか。ロケット団を好き勝手に利用する仮面の男への熱い闘志、根性、行動力……ライコウはずっとマチスを観察し、そして認め、協力を仰いだのかもしれない。何はともあれ、伝説のポケモンに認められる男なのだ。
 脱いでいた上着を投げ捨て、マチスは車両から出て行こうとする。

「さあ!セキエイはもう目の前だ!リニアが着くまで待ってられねえ!先に行くぜ!!」
「ああン!?」

 カツラに呼びとめられ、またも喘ぐマチス。この顔が可愛いので100万いいねである。
 第170話「最終決戦Ⅳ」(41頁)から、カスミ、カツラと共に仮面の男と戦うマチスの姿が見れる。左腕に小型の酸素ボンベを付け、ライコウ達が力を充分に発揮出来るよう考慮して戦闘に挑む。

「エキスパートタイプの技をさらに高めるという道具。」
「今、ライコウに渡したのは電気技をパワーアップさせる「じしゃく」!!」

 道具を持たせるというシステムを取り入れ、各エキスパートのジムリーダーと伝説のポケモンを組ませるという描写が非常に熱い展開である。
 続く171話「最終決戦Ⅴ」(55頁)は、カツラの作戦通りカスミとスイクンが仮面の男の動きを封じ込めるシーンから始まる。カツラとマチスがルギアたちを引き付け、その間にカスミが仮面の男と組み合い、それをスイクンが水晶壁で覆う。マチスはカツラの作戦を素直に協力して実行したのだ。可愛い。

「ギリギリだったがなんとかあんたの作戦どおりにもっていけたな!カツラの旦那!!」

 この”カツラの旦那”呼びは、マチスの気安さや馴れ馴れしさを感じ取れる。レッドの事をわざとらしく”さん”付けした台詞もあるので、茶化した言い回しを好む傾向があるのかもしれない。
 勝利を確信したマチスが仮面の男に近寄りそのマスクを外そうとすると、仮面の男は千切った上半身のみでマチスを抑え込んでしまう。喉元を鷲掴みにされ組み敷かれ、苦しそうな声を上げるマチス。
 スイクンをゴースに任せると、仮面の男はそのままルギア、ホウオウと共に飛び立って行ってしまった。
 この先のマチスは、コマの端で苦しそうな顔をするか驚いた表情を見せるのみで台詞はほぼ無い。ライコウを連れて行く事に関して「ケッ!勝手にしやがれ!」と言い、その後の出番は無い。
 十五巻のモノローグにて、この事件後にジム挑戦者が激増となっており、各ジムリーダーは忙しくその職を全うすることになったらしい。マチスも、ロケット団に戻る事無くジムリーダー職、アクア号の管理に奔走している事だろう。
 HGSS編にてマツバの口からマチスの名前は出てくるものの、その姿は一切見られない。サカキがロケット団復活を宣言したにも関わらず、出番は無いのである。中隊長三人は出番があるのだが……ケンが報告連絡相談を怠ったとしか考えられない。

2.まとめ

 以上が『ポケットモンスターSPECIAL』のマチスという男の軌跡となる。
 一章では悪役、二章では味方の様な動きを見せ、三章はさながら裏の主人公の様な働きを見せてくれた。主人公であるレッドと対峙し、また彼の理解者である面も見せつつ、ロケット団という組織を一番に思い行動するマチスは部下思いの熱い男である。
 あれだけロケット団の誇りを謳ったマチスである。今後、ロケット団が活躍する場面があれば、その時はまた出番を頂けたらと願わずには居られない。